太宰作品を何度が読み返していると、そのきっかけはなんだろうと思う。
いろいろなアプローチの中から、作品をモチーフに生まれたものがたくさんあり、その原点は何から生まれたかを知ると、再び原作を読みたくなるという回帰がはじまる。
そうやって名作はその時代、その世代に受け継がれていくように思う。
生誕110周年、代表作「人間失格」の映画が公開されている。
最近、映画化された 映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」。
この映画をきっかけに太宰作品を読むきっかけとなる場合も多い。昔、角川春樹社長が率いる角川書店の映画と書籍のコラボの成功は大きかったように思う。小説と映画が同時進行で作られた「ある愛の詩」を日本に持ち込んだり、人間の証明などの「証明」シリーズなどなど。
それによって、書店でも太宰作品のイベントをやっている。「書籍と電子書籍のハイブリッド書店【honto】 」からのメールは、
『人間失格』映画化記念 太宰治フェア(MARUZEN&ジュンク堂書店 札幌店)
開催期間 2019年09月01日(日)~2019年10月27日(日)21:00
このような企画によって、広く読者に触れあう機会を教えてくれます。まあ、太宰治の作品は教科書にものるような名作なので、ほとんどの人が知っていて、それでもなお読みたくなるイベントにしています。
さらに今年は、太宰治の生誕110周年で、同時に最初に書いた映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」も公開されています。
そういう事で、札幌からはるばる太宰のゆかりの地に行って来ました。
津軽鉄道の津軽五所川原駅から金木駅で下車。有名な斜陽館を巡るよりも、疎開の家に立ち寄ることにします。こちらを見ると太宰治の人間像が浮き彫りになり今まで持っていたイメージが変わる人も多いと言う。
実際に物書きをしていた書斎のテーブルがあり、その前に座ると、なんだか作家の気分になったりします。逸話では、ここに座ると文章がうまくなると言われています。(もちろん全員ではないはず(-_-;)ですが・・・)
当時を思うと絢爛豪華な「斜陽館」に比べて質素な作りです。
観光客が多く集まるのは「斜陽館」(国の重要文化財)のほう。マイカーやレンタカー、ツアーバスなど訪れる人が多い。向かい側にある津軽三味線会館と同時に見学する人が多いので、客層は若い人から年配者までが集まってきます。
このように、太宰作品に目を通すきっかけは、津軽の金木のからとか色々とあるのだと思います。
太宰作品へ色々な入り方
最近では中学校の教科書に「走れメロス」が使用されていて、太宰作品が若い人にもブームが一定の周期で起こっているようです。
ミュージシャンの中にも強く影響を受け楽曲になったというのもあります。それは、もう解散して時間が経ってしまいましたが、GARNET CROWです。文学とは違う表現方法で、影響を受けたとわかると、ちょっとしたブームが起きます。
これから、太宰の作品を読むアプローチとしていいかもしれない。
グループの一員のAZUKI七さんが、「人間失格」をモチーフにして作られたという「Rainy Soul」は、アルバム「STAY~夜明けのSoul~ 」に収録されています。
アルバム「STAY~夜明けのSoul~(初回限定盤B) 」
初回限定版には、「A」のDVD付きと「B」の通常の曲を特別なアレンジを施しているCDが付いていますが、「初回限定版B」が人気のようです。
の限定CDに「
また、印象的なのがデビュー10周記念としてのベストアルバム「THE BEST History of GARNET CROW at the crest…(初回限定盤)」の3枚目のディスク、15曲目の最後に「Rainy Soul」の楽曲があるのも、太宰の「人間失格」の出版が当時絶筆とされたので似たものを感じてしまう。(※のちに、書きかけの『グッド・バイ』が最後の作品とわかる)
の歌詞を書き出してみました。
月夜に響き出した 狂った旋律のピアノ
眠りを誘う
意味もなく 不安にさせる
冷たい視線はもう私を見てないRainy Soul
明日の気持ちなんて
人間は約束など出来ぬものRainy Soul
時に君がみせる
孤独にさえすがる生き方魅せられた物音ひとつない午後 童歌 微かに
“トオリャンセ…” さぁ、さぁ…Rainy Soul
あなたが生きてるならば
私まだ未来を祈れるRainy Soul
何も欲しがらぬ その瞳で
何を恐れているというのか…
教えて…誰も知らない 誰も見えない戦場をゆくのね
そして人知れず勝利願う
君の世間が
また反響しだしたRainy Soul
魅き合う時もあるでしょう
人はただ人であると知るならRainy Soul
傷ついた時だけでも
愛が必要だと思うなら
存在して
HUMAN LOST
この「」の詩にボーカルであり作曲者である中村由利さんが音という命を入れていく。その声は、中低音の周波数に独特のゆらぎによって聞きやすく引き込まれていきます。それは、「心を掴む声」と称される『1/fゆらぎ』というものではないかと思います。
人間失格を読み直すとき、この曲を「骨伝導イヤホン」使って表現をコラボさせると、それをモチーフとした理由が伝わってくる気がします。
太宰の「走れメロス」、過去の名作を現代に置き換える。そんな小説があれば、そのとっかかりから太宰の書籍を読み始めるというのもありかもしれない。
本を読むきっかけはどこからでもいいと思っています。
このような、新釈というアプローチで元となった作品にふれてみるのも面白いですね。
太宰の作品は、中期と後期の作品に大きく別れています。現在Kindleの中の電子書籍のアイテムも、太宰治 名作ベストセレクションとして保存しているのも中期・後期と分けて編纂されています。
これをもとにして、『「太宰」で鍛える日本語力』という本を読んでいくと、太宰作品の読者のこころをわしづかみにする理由が見えてきます。
この本は、第一章に「晩年」に入っている「思い出」から出題され、太宰の文章の虜になってしまう理由、接続詞のマジックにふれます。例文から「( )」のなかに入る言葉を選びます。
この書籍で語彙力を高めるための教材は、「苦悩の年鑑」・「東京八景」。
正確な日本語のため助動詞・助詞の習得には「姥捨」、漢字力の強化として「富嶽百景」と「女の決別」、未完に終わった作品の「グッド・バイ」からは論理力を高める、というトレーニング方式です。
このような作業から原作を読み返すと、何か没頭することが出来ます。
英語にも翻訳される「人間失格」:No Longer Human
日本の古典文学の翻訳に携わり世界に紹介したのは、日本の国籍(2011年日本国籍取得)を取得した「故ドナルド・キーン」氏です。
そして、日本人よりも日本が詳しかった外国人が、さらに日本文学にも造詣が深く英訳本として世界に紹介したひとつの作品が、原題「No Longer Human(直訳:もはや人間ではない)」です。
最初のGARNET CROWのAZUKI七さん作詞である「Rainy Soul」は、人間失格をモチーフにした作品であると言っています。その詩の最終行は人間失格の意味の「HUMAN LOST」で終わるのが興味深いところです。(上記の歌詞の最終行)
さらに、太宰の作品にも人間失格の基礎となった「HUMAN LOST(人間失格?)」という別の文章があります。
この作品は、鎮痛薬の一つであるパビナールによって入院生活を送りその時に書いたものとなっている。その病状は慢性パビナール中毒症と診断されてモルヒネの類似化合物といったもののようです。
本文「HUMAN LOST」の手書きの原稿は見るよしもないが、この文脈の荒々しさを身近に見たことがあります。活字になって整然としているように見えるが、正気のときと依存症状がでて精神が狂気の状態が文章に見え隠れしている様子です。
その文の背景として、井伏鱒二やまわりの人やに支えられ精神病院での治療を受けて、薬物の依存を克服までの闘病記になっているように思えます。
この時点で、日本文学に造詣が深い「ドナルド・キーン」氏は、太宰作品に「HUMAN LOST」があることを知っていて、渋い英訳版の題材を付けたに違いないように思います。この「No Longer Human(直訳:もはや人間ではない)」としたことで世界に読者層を広げていったと思えます。
「故ドナルド・キーン」氏については、江利川春雄「英語と日本軍 知られざる外国語教育史」にくわしい。
終戦後、日本兵との聞き取り調査などで来日している。アメリカ軍にとって超エリートで、この書籍のキャッチフレーズにもなっている「軍のエリートはいかに「敵国語」を学んだのか?にあらわれている。
電子書籍なら太宰作品の多くを無料で読めます。
太宰が亡くなって、著作権の保護期間が終了しています。そのため、太宰治の作品のほとんどが、電子書籍として「青空文庫」や「Kindleストア」内で無料で読める時代となり、本の中毒者や多読者に取って随分いい時代となりました。
それでも書籍として合本になっていたりする従来の紙ベース「企画本」出ていて迷うことも多いのが古典の名作です。
一冊も太宰作品を読んでいないなら、そのような厳選された最近の合本など出版社の企画書籍がちょうど良く感じる人も多いと思います。
今回の書店による太宰治フェアも、一度読んだ人の掘り起こしもあるだろうしこれから読んで見る人への機会でもあるのだと思います。
津軽にある金木駅から「疎開の家」を目指してみるのも良さそうです。
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